元アサヒビール社長樋口廣太郎氏と小説「西部戦線異状なし」
元アサヒビールの社長だった樋口 廣太郎氏が16日に亡くなった。
ご冥福をお祈りします。
樋口氏は、住友銀行の副頭取から、取引先のアサヒビールの社長になった。
「スーパードライ」というヒット商品で、アサヒビールの業績を急激に立て直したことが有名だ。
樋口氏の話として印象に残っていることがある。
それは、氏が住友銀行の行員だったころのこと。
副頭取にまでなった樋口氏だが、入社して10年経った頃には、組織の壁にあたって悩んでいた。
そんなときにふと手にしたのが、レマルクの「西部戦線異状なし」という小説だ。
第一次世界大戦で、「西部戦線(対フランス戦)」に投入された若いドイツ兵たち。
一人の志願兵が、塹壕の中から一匹の蝶に手を伸ばそうとした時、銃弾に撃たれて死ぬ。
しかし、軍の報告書には、「西部戦線 異状なし」と書かれていた…。
樋口氏は、この本に非情な「組織の本質」を見たという。
そして(ここからが氏の非凡なところだが)、「それならば、組織がどこまで、個人を許容するのか確かめてやろう」と思った。
「組織を(その限界まで)揺すぶってやろう」と決意し、バリバリと仕事に取り組んだ…。
銀行の一行員であった樋口氏が、「組織と自分」について、180度、考え方を変えなかったなら、後のアサヒビールの復活もなかったのかもしれない…。